「LV999の村人」の感想 ファンタジーかと思いきや実はハードSFだった

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ライトノベル「LVレベル999の村人」の最終巻である第8巻が先日発売になりました。そこで全話通しての読んだ感想をまとめてみたいと思います。

「LV999の村人」は小説家になろう出身の星月子猫によるファンタジーノベル作品です。なろうのファンタジー小説とこのタイトルからして、量産されてる異世界チート物なんでしょ?読まなくても分かるよって思ってる人はちょっと待ってほしい。

 

LVレベル999の村人のあらすじ

モンスターや魔族が存在し剣や魔法でそういった魔物と戦っている世界アースクリア。ここはかつて地球と呼ばれ主人公・鏡 浩二の住むヘキサルドリア王国の王都ヘキサルドアは元々日本の東京都と呼ばれていた。しかしこの地に住む者にとってそれは神話の世界の話だと思われていました。

 

この世界にはLVやHPといったステータスの概念が存在し、そしてモンスターを倒すとモンスターがお金を落とします。そしてロールと呼ばれるこの世界に生まれた者が与えられる役割が存在します。

それは天啓と呼ばれる王族、勇者、賢者などの特別な職業から戦士、武闘家、僧侶、魔法使い、盗賊、商人、狩人、呪術師といった能力のある者たち、そして戦う力の無き者として人口として最も多く存在するのが村人という役割です。

主人公・鏡もそんな戦う力を持たないその他大勢の【村人】としてこの地に生まれていました。

 

平凡なこの世界の一般家庭に生まれた村人の1人、戦う力を持たず努力をしたところでLV10まで上げるのが関の山といった役割の村人でありながら、この男のLVは999に達していました。

村人にとって脅威ともいえるスライムを飛ばした鼻糞で粉砕できる程に力を持ち、モンスター討伐によって毎日遊んで暮らせるほどの大金を持つ鏡であった。

 

そんな力を持ちつつもモンスターを倒せばお金が手に入るという事や生まれ持った役割など、この世界では当たり前の仕組みが鏡には何かがおかしいと憤りを感じていたのでした。

 

ギャグ要素もかなり強いが話の土台はかなりシリアス

ある日、広場の演説台で演説をする勇者の一行を見かけます。パーティに追加の人員を募集しているらしいが美女に囲まれたハーレムな旅を望んでいるようでステータスに関係なく見た目だけで仲間を選別している小物臭のする勇者であった。

レックスはLV90あり、れっきとした【勇者】のステータスを持つ者であった。一行はダンジョンに眠る王家に伝わる伝説の聖剣を取りに来ていた。

 

しかしダンジョン最深部の剣が刺されているはずの間には既に剣が抜かれた後で何も残っていなかった。そこに偶然居合わせたのは村人の鏡、聞けば随分前に刺さっていた剣を力ずくで抜いて売ってしまったマジごめんと言うのです。

 

勇者以外に抜ける筈がないと喚くレックスに対し、見せた方が早いと思い聖剣の刺さっていた台座を力だけで地面から抉り取って投げ捨てて見せるとレックスは驚愕し、鏡のLVが999と知ると「それだけの力があって何をしている・・・魔王だって倒せるはずだ」と言い放つが

「別にいいよ魔王とかそういうのは、俺は魔王が居ても困らないし」と勇者の存在意義を否定するかのような事を口にし、言葉を失った勇者の横を通り過ぎながら

「お前はまだ・・・この世界のシステム(仕組み)を知らない」と、そう呟いた。

 

そして人間との和睦を望む魔王の娘アリスとの出会いから鏡や勇者たちの運命は大きく変わっていきます。

 

なろうのお約束展開に飲まれないストーリー構成

小説投稿サイト「小説家になろう」の異世界ファンタジーにはその展開はお約束なのかな?って位によく見かける要素に「ギルド」や「魔法学院」などの舞台が登場してきます。

 

ここでいうギルドは魔物討伐の依頼などを斡旋してくれたり付近の情報をくれたりする組織で大体ランクによって依頼の難易度が変わってくるのですが、ギルド登録時に主人公の実力を測る実践テストなんかをするのですが大抵の場合強すぎる主人公はやりすぎてしまいます。

 

そして次に「魔法学院」です。魔法は別に付いても付かなくてもいいのですが、ネタ切れや展開に困った作者が唐突に学園が舞台の話に安易に舵を切り出す事があります。

物語序盤の成長段階ならよいのですが、ドラゴンを倒したりそれまで何度も世界を救う活躍をした後になってから何を学ぶつもりか学校に通いだすのです。

ここでも多くの主人公たちは入学試験でやりすぎてしまうわ、教師や同年代の貴族相手に力を見せ付けてしまうのです。

あの、丸山くがね作の「オーバーロード」ですらWEB版では帝国魔法学園編を長々とやってるくらいです。

 

私はこうした展開が苦手でこれが始まってしまうと、またやってしまいましたかと思って自分の中での評価が下がるのを感じるのですが「LV999の村人」そのどちらの展開もありません。金を稼ぐためにギルドに入るのではなく自らカジノ経営を始めてしまいます。

おっ、なんだか捻ってきたなと思って引き込まれて読んでましたが、本当に捻ってくるのは起承転結の転のところで物語は大きく転換します。

※以降、ストーリーの核心部分に触れるので注意。

 

 

この世界のシステム(仕組み)が明かされる

最初から最後まで読んでみると作者が最初から決まったラストに向かって執筆していた事が分かります。

物語中盤で西条 來栖というこの世界の鍵となる人物が登場します。彼こそこの世界アースクリアを創造した科学者であり、なんと鏡たちの居たアースクリアは作られた仮想世界だったのです。

 

現実世界である「アース(地球)」と仮想世界「アースクリア」かつて人類は最悪の悲劇に見舞われアースで生存する事が出来なくなりました。そして記憶だけの存在となってでも生き延びたいと願って作り出した仮想世界にそれを利用して人類を進化させるシステムを組み込んだのです。

自分たちがモンスターと戦っていた理由が自分の身体を次のステージへと進化させるためのものだったと知ります。そして自分たちの本当の肉体は1千万を超えるガラスのカプセルの中で保存され眠っていたのです。

 

鏡が憤りを感じていた通り世界の仕組みは作られたものでした。そうしないと倒せない人類の敵がいるといい・・・

そしてヒロインである魔族の娘アリスも人類の進化のため、このシステムが作った仮想世界だけでしか存在できない意識だけの存在だったのです。

剣と魔法の世界から急展開を見せ、物語は進んだ科学の世界の話になっていきます。

 

本当の敵デミス

来栖からデミスという敵の存在を知らされる鏡たち。デミスは宇宙から飛来した宇宙人と呼ぶにはあまりにかけ離れた惑星サイズの怪物。

1000年前の人類たちの戦いにおいて多大な犠牲を払いながら動きを封じる事に成功し今は宇宙空間に留まっているが封印を解いてまたこの星に攻撃を仕掛けてくる事が予想されていました。

仮想世界で役割を与えられLVを上げそれによって各々が得たスキルを使って今度こそデミスを倒さなければもう次のチャンスは無く、この大きすぎる敵に立ち向かうしか選択肢は無くなったのでした。

 

平和を手に入れ元の関係に戻ってくる円環構造

人類や魔族、様々な種族が協力したおかげで世界の脅威は回避された。そしてデータの世界に戻ってきたアリスたちは鏡の作ったカジノを運営しながら元通りの生活へと戻っていました。

少し変わった事とい言えばアリスの目的だった人間と魔族の和睦が叶い姿を隠さずに居られるようになったという事。

 

同じ時、鏡はスライムに襲われた親子が腰を抜かして泣き叫んでいる場面に遭遇していた。これは物語冒頭のプロローグと全く同じ状況になっています。

物語冒頭では鼻糞を飛ばしてスライムを倒して親子を助けた鏡だったが、今回は「モンスターは人を襲わねぇよ」と言ってスライムを指でプニプニ突きます。

もう人間を見かけただけで襲い掛かってくるモンスターが徘徊する危険な世界であったのはかつての話。この世界はもう役割に関係なくなりたいものになれる自由な世界になったのです。

 

このように多少変わることはありながらも物語冒頭の繰り返しになるようなストーリーを「円環構造」と呼ぶのですが

こうした構造を持つ作品の多くはそうした帰結になるように十分に全体の構成を練られていると感じる作品が多く、こうした決まったラストを描くために全体がつながっているので作品のテーマ性にブレが起こりにくく、最初と最後での登場人物の成長度合いも比較しやすいなどのメリットもあります。

 

そして作者の力量に因りますがこうした導かれたストーリーには心理的にも安心感があり、読者に綺麗に話が終わったと感じさせる事が出来るのです。

そして「LV999の村人」の最後は街に戻って来た鏡を迎え入れたアリスが鏡に結婚してほしいんだと告白をしたところで幕を閉じます。

 

書籍書き下ろしの追加エピソード

人類と魔物の争いから人類全ての生存をかけた戦いを経て、アリスが願った人間と魔族が共に暮らせる世界を鏡は作った。最後にアリスは鏡と抱き合いながらプロポーズをして幕を閉じました。

この終わり方は完璧だと思っていたんです。まるでコンピューターRPGそのままのような世界観から始まり、そんな世界にただ一人違和感を感じて世界の秘密を知りたいとする主人公、実際に世界そのものがゲームを模して作られ自分たちが役割を配置された存在だと知る。そして最後は大きな戦いを経て成長して戻ってくるという。

 

最初から最後まで行き当たりばったりでは無い全てコントロールされた話作りと魅力あるキャラクター。

己の未熟さに気付き勇者でありながら村人である鏡を師匠と呼び研鑽を積み上げ最後の戦いを前に大きな成長を見せたレックス。

そしてケツアゴでガタイのいい大男にしか見えない格闘家の女タカコ。見た目や口調から贔屓目に見たところでオカマちゃんだがこれが女なのである。話序盤だけのギャグ要員かと思いきやしっかりと強さのインフレについて来てラストの決戦にまで参加してくる実は沈着冷静な頭脳派キャラであるなど他にも様々な魅力とクセのある登場キャラクターを纏め上げ各々の成長も描いてきました。

 

そして書籍最終巻ではなんとその後の書き下ろしストーリーが描かれるといい完結後の番外編『激闘! 結婚式!』が収録されると告知されました。先の完結で満足していたのですがその後の結婚まで描かれるとなれば気にもなりますし、またニヤニヤ出来そうと思ってすぐに買って読んだのですが実際にはかなり期待を外されました。

 

というか完全にタイトル詐欺でした。鏡はプロポーズの返答を保留したまま一ヶ月が過ぎ、結婚するどころか最後までアリスとククルが鏡を取り合ってドタバタしたまま終わってしまうというね・・・。

もうそういう段階はすでに決着が付いてるだろうに、ここにきてまだヒロイン力で争いを始めるのか?鏡の相手はアリス以外にないと感じていた私にとっては最後にちゃんと2人がくっついて終わって欲しかったので、この番外編は蛇足に感じてしまいました。

 

まとめ

「LV999の村人」の完結と同時に新作の連載もスタートしました。色々な異世界を救ってきた男の話で今のところはそれほど新しい主人公に対して魅力を感じておらず流し読みしているのですが、作者曰く「LV999の村人」と世界に繋がりのある設定らしくクロスさせる事も考えてるとの事。

作者の技量を信用してこの新作もしばらく応援していきます。

それでは以上、『「LV999の村人」の感想 ファンタジーかと思いきや実はハードSFだった』でした。