映画『幼な子われらに生まれ』感想 家庭に縛られた他人同士のリアル

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『幼な子われらに生まれ』の紹介です。直木賞作家、重松清の小説を映画化。子連れの再婚で継ぎはぎだらけのギスギスした家庭を描きます。親子とは家族とはその意味を考えさせられる作品です。

 

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あらすじ

田中信はとある商社で営業マンを務めながら、妻の奈苗と長女・薫に次女・恵理子の4人で郊外に立地するニュータウンの一室で暮らしていました。奈苗とは4年前に再婚したばかりでふたりの娘は連れ子になり、前の妻・友佳との間にひとりの娘がいて今でも定期的に面会を続けています。出世への野心がまるっきりない信は有給をキッチリと消化して、社内の飲み会にもあまり顔を出しません。残業をせずに定時で会社を出ると近くのケーキショップで子供たちへのお土産を購入して、満員電車に乗り込んで家路を急ぎます。ルーティンワークのごとく毎日を繰り返してきた信ですが、予期せぬ妻の妊娠と突然の勤め先での配置転換によって平穏無事な生活が崩れていくのでした。


キャスト

・田中信(浅野忠信)
・田中奈苗(田中麗奈)
・田中薫(南沙良)
・沙織(鎌田らい樹)
・田中恵理子(新井美羽)
・沢田(宮藤官九郎)
・友佳(寺島しのぶ)


映画の感想

2017年の8月26日に劇場公開された三島有紀子監督によるヒューマンドラマになっております。元になっているのは直木賞作家である重松清が20年以上前に執筆した、家族とは何かを問いかけている長編文学です。

時代設定を現代に移行して主人公のキャラクター設定を大きく変更して、「共喰い」など数々の文芸作品のシナリオを手掛けている荒井晴彦の脚本によって映像化されています。

主演の浅野忠信から田中麗奈に寺島しのぶまで実力派俳優の共演と、3人の子役の繊細な演技が見どころになります。


浅野忠信が、主人公の田中信の生きざまをリアリティー溢れるタッチから再現していました。1973年神奈川県出身になり1990年に俳優デビューを果たし、是枝裕和監督や青山真治監督など実力派の映画作家に見出されていきます。2011年に「マイティ・ソー」でハリウッド映画に進出し2014年には「私の男」でモスクワ国際映画祭コンペティション部門で最優秀男優賞に輝くなど、近年では国内外での活躍で注目を集めています。

 

本作品の中では血のつながりを持つひとりの娘と持たないふたりの娘との関係性に思い悩んでいく父親を、情緒豊かに演じていました。時には自分自身の理想とする家庭を作り上げるために、時には他の誰かの幸せのために奔走する姿が感動的です。
家族の意味合いが大きく揺らいでいる今の時代に、改めて親子のあり方について考えさせられるストーリーです。東日本大震災発生直後に連呼されていた「絆」に多くの人が疲れ果ててしまい、繋がらない自由を求め始めていることを思い浮かべてしまいました。


ミドル・クライシスと言われている、中年男性が抱く危機感には味わい深いものがあります。中間管理職として本社での勤務実績があった信が、関連会社の倉庫への出向を命じられていく様子が印象的でした。無機質で広大な物流センターの敷地を、カートを走らせながらインターネット通販の商品をピッキングしていく後ろ姿には一抹の哀愁が漂っています。ロボットのような無表情を浮かべて行きかう従業員の中でも、ただひとり辛うじて人間らしさを保ち続けていく信の意志の強さが心に残りました。


思春期真っ只中へと突入した長女が、女の子特有の父親への嫌悪感をぶつけていくシーンがスリリングです。幼いながらも真摯な彼女の想いを受け止めて、父親としても人間的にも変わっていく信の決意が伝わってきました。義理の父親と本当の父親との間で揺れ動く薫が導き出していく、ひとつの答えが圧巻でした。

クライマックスで新しく誕生した生命が、1度はバラバラになってしまった家族を再び結び付けていく場面には心温まるものがあります。これからお父さんお母さんになる方たちや、お子様の成長を見守っている皆さんにも是非とも鑑賞して頂きたい1本だと思います。

 


まとめ

三島監督はNHKで数多くのドキュメンタリー作品を企画してきた映像作家で、「繕い裁つ人」や「少女」などの異色のヒロインを描く作風には定評があります。最新作は2018年11月1日に公開が予定されている「ビブリア古書堂の事件手帖」になり、こちらもお勧めな1本です。

それでは以上、『映画『幼な子われらに生まれ』感想 家庭に縛られた他人同士のリアル』でした。