映画『パターソン』感想 詩の朗読を聴いてるような穏やかさがある

f:id:vzero:20181025155144j:plain

映画『パターソン』の紹介です。「ブロークン・フラワーズ」「コーヒー&シガレッツ」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」等の独特の作風で知られるジム・ジャームッシュ監督による映画です。特に何も起こらない穏やかな時間が流れていくだけなのですが、それが心地よく肩の力を抜いてじっくり観られる安心感のある作品です。

 

あらすじ

パターソンは妻のローラと愛犬・マーヴィンと共に、静かな日々を送っていました。仕事は市内循環バスの運転手になり、勤務時間の合間や休みの日を縫ってノートに詩を書き付けることを趣味にしています。ローラからは詩の才能を褒められて出版を勧められていますが、なかなか実行に移すことはありません。

朝起きて食事をしてお弁当片手に出勤して、勤務時間終了と共に帰宅してゆっくりとローラと夕食を楽しみます。食後はマーヴィンを連れて散歩に出かけて、途中でバーに立ち寄って1杯だけビールを飲むことを日課にしています。ローラの手作りカップケーキが思いのほか売り上げを伸ばしたために、土曜日に夫婦で映画鑑賞に行きました。帰宅したパターソンを失望させる、予想外の事件が起こるのでした。

 


主演キャスト

・パターソン(アダム・ドライバー)
・ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)
・ドニー(リズワン・マンジ)
・ドク(バリー・シャバカ)
・サム(トレヴァー・パラム)
・デイヴ(トロイ・T・パラム)
・エヴェレット(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)
・日本人の詩人(永瀬正敏)

 


映画の感想

2017年の8月26日に劇場公開されたジム・ジャームッシュ監督によるヒューマンドラマになっております。アメリカのニュージャージー州パターソンを舞台に設定して、地元で生まれ育ってバスの運転手として働いているひとりの男性の月曜日から日曜日までが映し出されていきます。3D映画や予算をかけた超大作が溢れるシネコンやロードショーの流れに逆らった、ささやかなメッセージと大きな優しさが込められています。


永瀬正敏が、1989年の「ミステリー・トレイン」から27年の時を越えてジャームッシュ作品に出演しています。1966年に宮城県の都城市で生まれて、1983年の相米慎二監督の青春ドラマ「ションベン・ライダー」で俳優としてデビューを果たしました。

フリドリック・トール・フレドリクソン監督による「コールド・フィーバー」からマー・ジーシアン監督の「KANO~海の向こうの甲子園~」まで、海外の映画作家の作品でも活躍を続けていきます。

 

本作品の中ではアダム・ドライヴァーが演じている主人公のパターソンに、大いなるインスピレーションを与える日本人の詩人の役にキャスティングされています。物語を締めくくる重要人物としての存在感と共に、ジム・ジャームッシュとの変わらない友情が伝わってきました。


20世紀のアメリカを代表する詩人である、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズへの並々ならぬ思い入れを感じるストーリーです。実験的な戯曲ばかりではなく長編詩「パターソン」を残したことでも知られている文人への、オマージュや敬愛には心温まるものがあります。普段は医師として病気で苦しんでいる人たちを救いながら詩の創作に励んだウィリアムズと、バスを走らせながら詩人を夢見るパターソンの生きざまが重なり合っていきました。


月曜日の朝から始まって日曜日に幕を閉じる、ごく普通の主人公の1週間には味わい深いものがあります。バスの車内でもこれといった事件は発生することなく、エンストのような些細なトラブルにもマニュアルに従ってあっさりと片付けてしまいます。ルーティンワークのごとく繰り返されていく毎日の中でも、妻の焼いたカップケーキから高まっていく小さな不協和音が印象的でした。

 

クライマックスのパセイック滝の見える公園と、ベンチで語り合う行きずりのふたりの姿が心に残りました。人生に迷えるパターソンを導いていく詩人が口にする、「アーハン」という相槌が心地よかったです。ありきたりな日常と何気ない風景こそが、何よりも大切なものだと気づかせてくれました。


メジャー作品よりもインディーズムービーを愛してやまない方には、見て頂きたい1本です。エミリ・ディキンスンやカール・サンドバーグなど、古き良きアメリカ詩集を耽読する皆さんにもピッタリです。

 


まとめ

インデペンデント映画ムーブの火付け役となった「パーマネント・バケーション」や「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を始めとする、初期のジャームッシュ作品と見比べてみても心地良い脱力感は変わることはありません。4年前の前作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」のような、吸血鬼をテーマにした異色の作品も合わせて楽しんで頂きたいです。

以上『映画『パターソン』感想 詩の朗読を聴いてるような穏やかさがある』でした。