満島ひかり主演映画『海辺の生と死』感想

f:id:vzero:20181023145759j:plain

作家夫婦、島尾ミホと島尾敏雄の恋愛実話を映画化した「海辺の生と死」。島尾ミホ著の同名小説「海辺の生と死」だけではなく島尾敏雄著「島の果て」、「死の棘」などの自身をモデルにした短編小説も原案として織り交ぜて構成されているそうです。

 

 

www.youtube.com


あらすじ

第二次世界大戦における日本軍の敗色が濃厚となる中で、大平トエは鹿児島県の奄美大島にある国民学校で教師を務めていました。

敵国からの襲撃に備えて、この島には海軍特攻艇部隊が駐屯しています。若くして部隊長を務めている朔は一見すると無骨で取っ付きにくそうに思えながらも、その隠されている優しい一面にトエは次第に心惹かれていきました。

敵軍の空爆は日に日に激しさを増していくばかりで、朔の特攻隊としての突撃が迫っていきます。自分自身の生命を国家に捧げる朔の決意は揺るぎないものでありながら、トエは愛する人への未練を断ち切ることが出来ませんでした。

朔との思いを成就させるために、トエは自らの命を賭けた決断を下すのでした。


キャスト

・大平トエ(満島ひかり)
・朔(永山絢斗)
・隼人(川瀬陽太)
・大坪(井之脇海)
・トエの父(津嘉山正種)

 


映画の感想・見どころ

2017年の7月29日に劇場公開された越川道夫監督によるヒューマンドラマになっております。実在するひとりの小説家と、その妻との出逢いをテーマにした作品になります。

太平洋戦争下での隊長が抱えている人間的な苦悩が、リアリティー溢れるタッチで描き出されていきます。ストーリーの舞台となる豊かな自然に包まれている奄美大島の風景も、美しく映し出されていきます。

 

島の風土や歴史にヒロインが歌う島唄を始めとする、神話的なイメージも見どころになります。国際情勢や政治の流れが再び戦争へと向かっている今の時代に対して、過去の過ちと平和へのメッセージが込められていました。

 

満島ひかりが、島尾ミホをモデルにしたヒロインの大平トエの役に情緒豊かにアプローチしていきます。

音楽ユニット「Folder」のメンバーとして活動を続けていた中で、2009年に演技経験が全くない中でも園子温監督の「愛のむきだし」のヒロインに大抜擢されます。本作品の中で披露している質素かつ地味なブラウスを身に纏って愛国的なもんぺを履いた姿にも、不思議な色気が漂っていました。


朔に扮している、永山絢斗の多くを語ることのない佇まいや虚無感に包まれている後ろ姿も魅力的です。戦争の狂気の淵を、ひとりの女性の愛によって救われる姿を体現していました。


オープニングショットから映し出されていく、島の子供たちを連れた女性教師がトンネル状に覆われた林の奥深くへと歩いていくシーンが印象深かったです。くねくねと入り組んだ一本道の風景描写が、ふたりの男女の前途多難な行く末をさりげなく暗示しているようで心に残りました。お互いを思い合って静かで平穏無事な暮らしを送ることを願っている若いふたりを引き裂いてしまう、残酷な時代の流れや周囲の無理解には胸が傷みます。

 

特攻要員として一度は死を覚悟しながらも、戦後は小説家として活躍した島尾敏雄の数奇な運命を思い浮かべてしまいます。男と女の恋愛模様に、国家との三角関係が複雑に絡み合っていく展開に引き込まれていきました。

全編を通して挿入されていく海辺に打ち寄せる波の音や風のざわめきも効果的ですし、戦争によって翻弄されていく人間の矮小さと、いつの時代も変わることのない自然の雄大さとのコントラストが浮かび上がっていきます。

時には暗く重い雰囲気を漂わせながらも、トエの周りを無邪気に跳び跳ねる子供たちの振る舞いには心温まるものがあります。

教師としてだけでなく人間として、次の世代へと平和を伝えていく彼女の強く秘めた意思を垣間見ることが出来ます。


決して許されることのない関係性を、一途に貫き通す朔とトエの生きざまには強く心を揺さぶられました。戦後派の作家や私小説に造詣の深い、読書家の皆さんには是非とも見て頂きたい1本だと思います。

 


まとめ

越川監督はこの映画のような小説の映像化ばかりではなく、「アレノ」のようなラブストーリーも手掛けているので見比べてみると面白いです。

主演の満島ひかりは2014年には瀬戸内寂聴原作の「夏の終り」にのヒロインに抜擢されていますので、文芸作品との相性はバッチリです。